The Relation between
Sports and Meal

試合が近づくにつれて練習量が増えるとともに、どのような食事をとればいいか悩む人は多いのではないでしょうか?10代の頃と比較して、年齢を重ねるとともに日常生活においても食事の重要性は増してきています。そんな食事に関する疑問について、今年のFANATIC TOKYOで食事面の監修を務めるサッカー日本代表の専属シェフ・西芳照さんに、ご自身の経験を交えながらお話を伺いました。
—現在の日本代表の食事はどのような内容でしょうか?
西芳照(以下、西):ハリルホジッチ監督になってからは9:00に集合して、全員揃ってから一緒に食事をとります。お昼は12:00、13:00頃と比較的間隔が短いです。日本人の場合、もう少し早めに起きてしっかり朝食をとりたい人が多いと思いますが、ハリルホジッチ監督は、朝食はビスケットを少しつまむぐらいサラッとしたものでいいという考え方です。

朝食
朝食は焼き魚、ハム、ソーセージ、豆の煮物、グリルしたトマト、温野菜、目玉焼き、オムレツなど。選手によって調理方法にこだわりがある人もいるので、そういったオーダーはその場で対応しています。

毎食必ず用意するのは、サラダ、ジュース、フルーツ、ヨーグルトです。ジュースは、以前だとボトルジュースを出していましたが、今は搾りたてのフレッシュジュース(オレンジ・グレープフルーツ・キウイなど)を出しています。海外だとスイカのジュースもありますが、スイカは栄養分がないので出さないです。変わったものだと人参のジュース。とりあえず出してみましたが、監督しか飲みませんでした(笑)。

ジーコ監督の時にはミキサーを持って行き、カットしたフルーツや野菜にミルクを加えて、自分でジュースを作っていたこともありました。ヨーグルトはプレーンヨーグルトやイチゴ・ブルーベリーの果糖されたものを選手は好んで食べています。フルーツ(オレンジ・キウイ・グレープ・パイン)も出します。一番人気はマンゴーで、欠かせないのはバナナ。各自部屋に持って帰り、小腹が空いた時に食べています。

パンは現地のものを出すことが多いです。毎食ご飯、味噌汁も出しています。ご飯のお供には納豆、なめたけ、ふりかけ、梅干しが多いです。炭水化物をたくさんとってもらうために、ごはんのお供はたくさん用意します。味噌汁はできるだけ具沢山にして、味噌は2種類持っていきます。そうすると3種類の味噌汁が作れるので、なるべく味を変えて飽きないように工夫しています。一番人気の味噌汁は豚汁。意外と人気だったのがトマトの味噌汁です。

昼食
昼食は魚と肉が二種類、焼売、野菜(ビタミンが豊富な人参、パプリカ)などを出しています。選手の皆さんが一番食べるのは塩胡椒して焼いた牛ヒレ肉。選手の目の前で焼いて出しています。60-70gの肉を一日7,8枚食べる人もいます。ザッケローニ監督の時は選手も自由な焼き方で食べていましたが、ハリル監督になってからは、スタッフからの要望で消化を良くするために選手には必ずウェルダンで焼いて出しています。魚は日本から持っていくものと現地調達するものの両方を使っています。

試合直前
試合の前々日は銀鱈の西京焼き、前日は昼にサンマの塩焼き、夜にうなぎを出すことが多いです。野菜は、朝に蒸したら昼はグリルにして焼き目をつけて食欲をそそいでいます。選手のみなさんがよく食べるのはカボチャやにんじん、ほうれん草といった緑黄色野菜ですね。お肉と同様、パスタもその場で茹でて出しています。

選手が好きなのはペペロンチーノ。フライパンを三つぐらい持ってできたてをその場で作って出しています。ペペロンチーノ、トマトソース、ミートソース、明太子などを出しています。試合の二日前まではクリームを使えるのでカルボナーラを始め、クリームたっぷりのパスタも出しています。一番人気はペペロンチーノ。消化を良くするために茹ですぎたパスタをそのまま食べている選手もいます。塩茹でしていて味は付いているので、意外と美味しく僕も好きですね。
—試合に向けて、どのようなことを意識すればいいでしょうか?
西:まず試合二日前からは油脂を控え、煮物や焼き物など和食のメニューが中心になります。和食は健康食として世界的にブームですが、アスリートの食事としても良いですね。あとは炭水化物をいかに早くとるか。ほかにはDHA・EPAをたくさんとる。これは鯖、さんま、サーモンなどですね。末梢血管まで血液の流れを良くすることで栄養が行き渡り、疲労が取れやすくなります。
—普段仕事をしている方は夜にフットサルをすることが多く、その場合食事はどのタイミングでとればいいでしょうか?
西:練習が終わって30分以内に炭水化物(おにぎりorサンドイッチ一個分)をとる、その後一時間以内に夕食をきちんととるのがいいと思います。アルコールは疲れが取れにくくなります。
—最近ではスムージーなどが流行っていますが、野菜を気軽にとるには何がいいでしょうか?
西:一番いいのは野菜のスープ。例えば、カボチャやブロッコリーをベースに玉ねぎや人参などが入っているスープを飲むのがいいです。日本ではあまり食べる人がいませんが、いずれはそうなってくると思います。
—昔はゲン担ぎでカツ丼を食べていた時代もありましたが、食事に対する意識はいつ頃から変わってきたのでしょうか?
YN:スポーツ栄養学が発達したのは、オーストラリアとアメリカです。日本ではあまり意識されていませんでしたが、変わってきたのはここ10年ぐらいだと思います。他のスポーツに比べて、サッカー選手は選手生命が短いので、なるべく長くプレーするには普段の食事を意識することが大事です。自分の好きなものだけを食べて動けるのは、25歳ぐらいまでだと思います。ただ、ストイックになりすぎるのもどうかとは思います。

あと、年齢や環境に応じて消費カロリーが変わってくるので、自分の運動量に合わせた管理をすることは大事です。ほか、気軽に体脂肪率を測れるので、成人病の予防も含めて日常からいかに意識することが大事だと思います。あと、日本人に足りないと言われているのはカルシウムと鉄分。牛乳、チーズやほうれん草など鉄分の多い野菜を食べるのが良いと思います。
西芳照|Yoshiteru Nishi
1962年福島県南相馬市生まれ。高校卒業後に上京し、京懐石よこいで和食の修業を積む。97年、福島県楢葉町に開設したナショナルトレーニングセンター、Jヴィレッジのレストランに勤務。99年、天皇皇后両陛下行幸啓における料理を手がけ、その後、総料理長に就任。2004年3月、シンガポールで行なわれたW杯ドイツ大会アジア地区予選にサッカー日本代表の専属シェフとして初めて帯同。以来、W杯ドイツ大会、W杯南アフリカ大会も含め、50回以上の日本代表の海外遠征試合に帯同し、選手やスタッフに食事を提供する役割を担う。2011年の東日本大震災後、総料理長として勤務してきたJヴィレッジが休業。現在、Jヴィレッジは東電の中継基地となっているが、そこで働く人々のために、Jヴィレッジ内「ハーフタイム」と近接する二ツ沼公園内にレストラン「アルパインローズ」をオープン。「あたたかい料理を出してあげたい」その一念で腕を振るっている。
Interview by Takashi Ogami(SHUKYU Magazine)
Illustration by Yoko Nakayama